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「ぬるべの郷」奈良県曽爾村

■曽爾村

奈良県の宇陀郡曽爾村を訪問してきました。


「曽爾」


読めますか?


初めてこの地名を見たときは全く読めず。

そや?

そね??


そに と読みます。


曽爾村(そにむら)は、奈良市中心部から車で1時間ほどの山間にあります。


人口は約1300人。典型的な高齢化過疎地ですが、山並みの景色がとても美しいところでした。



■漆部(ぬるべ)の郷


この地は飛鳥時代、漆掻きや漆塗りの仕事が行われていたことが、古代の文献から分かっています。


「本朝事始(ほんちょうことはじめ)」のなかでは、ヤマトタケルノミコトがこの隣村で狩りをしているときにウルシの木を見つけ、木が多く自生していた曽爾村に「漆部造(ぬりべのみやつこ)」=漆塗りを司る役所をおいたという記述。


また「日本書紀」には、用明天皇(聖徳太子の父)の時代に「漆部造兄(ぬりべのみやつこあに)という人物が蘇我馬子のもとへ派遣されたという記述があります。



こちらは平安時代に書かれた「日本霊異記」。「漆部麻呂」が登場します。


現在、曽爾村に漆産業は残っていませんが、近年「ぬるべの郷」として地域おこしに力を入れています。

(漆部という漢字は、ぬりべと読まれる場合と、ぬるべと読まれる場合があります。)


■Urushi Base Soni NEN RIN


12年ほど前、地元の有志による「漆ぬるべ会」が発足し、ウルシの植栽が始まりました。


当初1300本の木を植えたにもかかわらずそのほとんどが枯れてしまうなど、難しい試行錯誤を重ねながら、現在も熱意ある活動が続いています。


近年は、村の行政も参画しています。

一昨年には漆担当の地域おこし協力隊員が採用され、

漆をテーマとするコミュニティスペース「Urushi Base Soni NEN RIN」が開設されました。


古い民家をリノベーションした素敵な施設です。



「Urushi Base Soni NEN RIN」では、漆関連をはじめとする様々なワークショップ、セミナーが開催されています。


また、2階には本格的な漆塗りの工房が設けられています。


窓から外の山々を臨むとても気持ちの良い工房。




今回ご案内くださったのは、この工房の主、阪本修さん。

奈良中心部にあるご自身の従来の工房と、この曽爾村の工房の2拠点で製作をされています。

ご自分の漆芸作品の他に、若者向きのポップなカラーの漆器を作ったり、一方で奈良の国宝や文化財の修復にも携わられるなど、幅広く活躍されている若手塗師です。


NEN RINには、阪本さんの作品も展示されています。


かっこいいです!


■ウルシの植栽活動


NEN RINを見せていただいたあと、植栽地を3か所見学しました。


いずれも広さは比較的小規模で、1年~5年の木が植栽されていました。


当初植栽した1300本がほとんど枯れてしまった経験をもとに、さまざまな工夫がされています。


見学した3か所に共通して見られたのは土に作られた溝と、畑の周囲を囲む柵。


溝は水はけのため。


これまでの教訓から、しっかりと水はけの対策が組まれていました。


柵は鹿除けです。さすがは奈良!鹿の被害がかなり深刻です。


木の皮や葉を食べてしまうのですが、その疵から病気になって枯れてしまうことが珍しくありません。


鹿の口はかぶれないのでしょうか。。。




もう一つ、曽爾村の特徴としては、自生している木がまだ残っていること。

これは漆の植栽活動にとってはとても有利なことです。その根を分根して苗を育てることができるのです。自生しているということは、その土地と木の相性が良いということであり、ある程度、元の木の様子から苗木の段階で性質を予測することができるというメリットもあります。


全国各地で植栽活動は行われていますが、通常はほかの既存の産地から苗を譲ってもらって植えていますので、純粋な地元由来のウルシを植えることができるのは大変希少です。



■これから10年


現在5年程度までウルシの木の育成が進みました。

漆掻きができるまで、これから10年が正念場です。


また、一定量をコンスタントに採れるようにするには植栽数を増やしていく必要があります。

そのために必要なのがまず用地の確保。


ぬるべの郷とはいえ、地元の理解や周知もまだまだ取り組みの余地があり、植栽地確保は容易ではありません。


また今回、活動開始当初からの一番大きい植栽地は訪問できなかったのですが、それは昨年の大型台風で植栽地自体も被害があった上、そこへ行く道も寸断されてしまっているからでした。自然災害は、山間地区の無視できない大きなリスクのひとつです。



しかし、活動は前向きに展開しています。

今後、曽爾村自体のサポート強化に加え、奈良県の協力を得ることができる見込みです。

県の地域活性化の一環として、曽爾村のぬるべの郷活動を観光資源としても活用する新たな取り組みが始まります。



実は先日、奈良市内の人々に「曽爾村に行く」と伝えると

「なにがあるの?」

「ぬるべの郷と言われているけど、何もないよ」

と言われてしまいました。


確かに静かな村ではありますが、漆以外にも曽爾高原をはじめとする美しい景色があり、お亀の湯という美肌温泉もあります。

大和の国を築いた偉人たちの物語にとどまらず、いろいろ妖怪伝説や大蛇の伝説なども残っているそうで、深掘りすると面白そうです。



古代文化と歴史が人々の暮らしにもしっかりと継承されている奈良の漆の取り組みには、他の漆器産地で展開されている植栽活動とは異なる個性を感じました。



曽爾村が「ぬるべの郷」として、奈良の、日本の、漆文化を支える地域となり、そしていつか、曽爾村で掻いた漆が奈良の国宝修復に利用されるようになることを、心から願っています。



曽爾村のウルシの芽。ちょっとキモカワです。


「Urushi Base Soni NEN RIN」

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